【第4回】 隅田川だけじゃない!「立川」や「横川」だってある すみだの街

お勤めの方で名刺を持っている人は多いでしょう。私も持っています。そんな名刺に関する博物館が、すみだの南端の方にあると聞いて、今日は平日にお休みを取りました。午前中に家で用事を済ませて早めのランチ。昼からそこを目指して出掛けました。

まずは、昼下がりのコーヒーブレイクを

博物館があるのは立川3丁目。私のおウチからは少し距離があるので、途中で昼下がりのコーヒーブレイクにしましょう。立ち寄ったのは、「CHILL OUT COFFEE&…RECORDS」。とても小さなカフェです。

CHILL OUT COFFEE&…RECORDS

国道14号線に面していますが、お店の位置は少し奥まったところ。パラソル・イス・テーブル、木製看板、観葉植物などからのんびりとした雰囲気が伝わってきます。

「CHILL OUT 」(チルアウト)は、くつろぐ、落ち着くといった意味の英語。コーヒーを飲みながらレコードを聴いてゆっくりしていって欲しい。ご店主の村田さんのそんな想いから付けられた店名です。2017年4月にオープンしました。

CHILL OUT COFFEE&…RECORDS

注文ごとに豆を挽いて、ハンドドリップで淹れてくれるコーヒー。カウンター上にコーヒー豆4種類の瓶が見えます。テイクアウトの利用客も結構多いようです。

CHILL OUT COFFEE&…RECORDS

奥の棚や手前のケースにレコードがたくさん! ジャズ、ソウル、ブラックミュージックなど400〜500枚くらいあるそうです。

CHILL OUT COFFEE&…RECORDS

ブレンドコーヒー・中煎りとイチジクのスコーン(合計770円)を注文しました。

すぐ目の前の国道14号線は、クルマがひっきりなしに行き交うあわただしさ。しかし店内はそんな喧騒を忘れさせるかのようにゆったりと、心地よい音楽やコーヒーの香りに満たされていました。

「すみだ小さな博物館」の1つを訪ねました

次は、お目当ての「名刺と紙製品の博物館(SAKURA TERRACE)」へ。博物館といっても、専門のいかめしい施設ではありません。

民間の作業場、事務所、店舗、家などの一角を利用して、そこならではの製品、道具、文献・資料などのコレクションを通して地元の産業や文化を紹介してくれる。そんな施設「すみだ小さな博物館」が、墨田区内には23ヶ所もあるのです。

株式会社山櫻

「山櫻名刺」で有名な印刷メーカーの株式会社山櫻が、かつて印刷工場のあった地に建てたビルです。3階にある博物館は2008年に開設されました。

株式会社山櫻

館内の様子。窓際には、活版印刷機、裁断機、プレス機など。歴史ある機械を間近に見ることができます。写真手前の陳列台は、山櫻製品などの販売コーナーです。

名刺は、文明開化で明治期に欧米から流入したものなのだろう。何となくそんな先入観がありました。しかし館内の解説を見ると、実は中国がルーツ(2200年以上も前!)。日本でも19世紀の江戸時代には既に使われていたようです。

そういえば、永井荷風さんの代表作『濹東綺譚』で主人公が夕立の中で偶然お雪と出会った後のシーンが思い出されます。その日の別れ際に彼女から「寺島町七丁目六十一番地(二部)安藤まさ方 雪子」と記された、三味線のバチの形に切った名刺をもらうのです。映画『濹東綺譚』(1992年作品、新藤兼人監督)でも、このシーンが出てきます。

株式会社山櫻

映画のシーンに出てきたのは、こんなイメージの名刺でした(作画:花風)。

思えば、名刺というものは便利な存在です。小さな紙片1枚だけで、その人のことをひと目で相手に知らせることができる。ペーパーレスやリモートワークが進展する世の中だけど、名刺はやっぱり〝小さな巨人〟のような存在なんだ!そんなことを改めて知ることができました。

「立川」から「横川」へ

さて、この博物館がある場所の地名は「立川(たてかわ)」です。墨田区の南部はもともと埋立地が多く、町割りが碁盤の目のようにタテヨコが整然としているエリア。舟運などのために川や運河(人工河川)も多かったのです。では、その名前の川はどこを流れているのでしょう。

答えは、錦糸町や両国の南側を通る首都高速7号線の真下。全部が高速道路に覆われているので目立ちませんが、江戸時代の初期に作られた運河の「竪川」です。住居表示実施の際に「竪」が当用漢字ではなかったため、地名のほうは「立川」に改称されたようです。

竪川

「竪川」の東端あたりの光景。高速道路を走っていても真下が川だなんて、きっと誰も気が付かないでしょう。写真の右下方向・東側に少し進むと、南北に流れる「大横川」に合流します。

ところで、東西に流れているのに「タテ」(竪川)、南北の流れなのに「ヨコ」(大横川)。ちょっと変だと思いませんか。実は、当地から江戸城に向かって、タテ(方向は東西)かヨコ(方向は南北)かなのです。意外ですね。帰り道は、大横川親水公園を南から北へとそぞろ歩きしましょう。

大横川親水公園の位置図

大横川親水公園の位置図(出典:墨田区サイト「墨田区立公園」)。大横川の北部を埋め立てして1993年にオープン。幅30〜40m、長さ1.85km、面積約63,000㎡と広大です。園内は、それぞれ特徴ある5つのゾーンに分かれています。地名の「横川」は「業平」のすぐ南側で、「立川」からはかなり離れたところです。

大横川親水公園

背の高い樹木が整然と植えられた一角。北に向かうにつれて東京スカイツリーがどんどん大きく見えるはずなのに、この写真では“かくれんぼ”状態。一部がわずかに見えるだけですが、分かりますか?

さんぽのシメは「横川」で・・・

今日はいっぱい歩いたので、のどもカラカラです。こんなときは、やっぱりビール!「立川」で名刺のことをいろいろ知ったから、今度は「横川」でさまざまなビールを楽しむことにしました。向かったのは「麦酒家 みつよし」。春日通りに面したビルの1階にあります。

麦酒家 みつよし

クラフトビールに特化したお店で、テイクアウトにも力を入れています。写真の左端、ドア沿いに見えるつる草のような鉢植え、実はビールの原料の1つ「ホップ」だそうです。

中に入ると、壁一面にディスプレイされたビール缶にまず驚かされます。

地ビール

さまざまな「地ビール」はもちろんのこと、大手メーカーの缶もご当地ものほか限定製品ばかり。スーパーやコンビニで普通に見られる缶ビールとはまったく違うものがオンパレードでした。

地ビール

反対側の壁面やカウンター上にも、瓶や缶のクラフトビールがところ狭しと並べられていて壮観です。販売されているものだけでも70〜80種類あって、生ビールも2種類用意されています。

もともとIT系の仕事をしていたご店主の金澤さんが、お父様の営んでいた飲食店の近くでこのお店をオープンしたのは2017年10月。5年ちょっと経ちました。店名の「みつよし」は、今は亡きお父様の「光雄(みつお)」とご本人の「剛(つよし)」から。親子愛が感じられます。

ビールはたくさんあって迷うので、お店のおススメから。まずは「宇宙ビール」をいただきました。クラフトビールファンの間でとても人気で、手に入れづらいブランドだそうです。

宇宙ビール

宇宙ビールの「SPACE POP CITRA 」(750円)。それぞれのクラフトビールに合ったグラスを添えてくれます。柑橘系の香りが爽やかな味わいでした。

おつまみは、まずは自家製餃子をいただきました。ニンニク不使用が基本で、さらにニラ不使用のものも選べます。ニラなしにしてみましたが、とてもパンチのある味わい。「岩下の新生姜」を使用して、味付けを工夫しているそうです。

次に頼んだのは焼きベーコン。すぐ近くにある「桑原ハム」の製品です。昔ながらの製法で時間と手間をかけて作られるハム・ソーセージ・ベーコンが人気を呼んでいて、墨田区のふるさと納税の返礼品にも選ばれているメーカーです。

焼きベーコン

塩・コショウの具合がほどよくて、ビールがどんどん進みます。

ビールのお代わりは、「亀戸ビア」の生ビールを頼みました。

亀戸ビア

亀戸ビアの「天神ヘブン」。亀戸天神そばの小さな醸造所で作られている生ビールです。なみなみと注がれたこのグラス、長く錦糸町にあった松徳硝子の名品「うすはり」です。

クラフトビールの品揃え、ビールに合わせたグラス提供、そして焼きベーコンやグラスなどに見られる地元愛。ご店主のこだわりが感じられました。居酒屋というよりもまるで〝クラフトビールの小さな博物館〟でも訪ねたような気分。帰り掛けに神戸のクラフト缶ビール(630円)を1本テイクアウトしてお店を出ました。

花風

今日のさんぽ を振り返って

今日は名刺のことをいろいろと学べて、「すみだ小さな博物館」がとても身近でおもしろい施設であることが実感できました。区内にはほかにもたくさんあるので、機会を見つけてあちこち行ってみようと思います。

そして、墨田区の南端のあたりを訪ねて気付いたこと。方向は東西なのに「タテ」、南北だけど「ヨコ」。何を視点や基準にするかで、ものの見え方が逆転してしまう場合だってある。こんな意識を持っておくと、暮らしや仕事でも役に立つかもしれません。では、皆さんまたお会いしましょうね・・・。

【お店情報】
CHILL OUT COFFEE&…RECORDS
東京都墨田区緑2-17-8
TEL:公式サイトに掲載なし
営業時間:(金曜〜水曜)10:00〜18:00/(木曜)10:00〜17:00
定休日:不定期(基本無休)

名刺と紙製品の博物館(SAKURA TERRACE)
東京都墨田区立川3-1-7 3F(株式会社山櫻 墨田支店内)
TEL:03-5625-0630
営業時間:10:00〜17:00
定休日:土曜・日曜・祝祭日・夏季休暇・年末年始

麦酒家 みつよし
東京都墨田区横川4-8-23 HTビル1F
TEL:03-6658-8686
営業時間:(火曜〜金曜)16:00〜22:00(20:30以降無客の場合は閉店)/(土曜・日曜)15:00〜21:00(20:30以降無客の場合は閉店)
定休日:月曜、その他に祝日翌日などで不定休あり