【第18回】「名は体をあらわす」とは限らない場合だってある。そもそも「墨田」って、どの辺り?

「名は体(たい)をあらわす」というフレーズがあります。例えば「東京スカイツリー」は、実際に東京都内の都心近くに建っています。このように、人やモノとかコトの名前がその本質や実態をよく言いあらわしている。そんな意味合いでしょう。

「墨田区」の名前だって、〝名は体をあらわさない〟ケースなのかも

一方で、そうではない(名は体をあらわさない)ケースもあちこちに見られそうです。一例として「東京ディズニーランド(東京ディズニーシーも)」は、千葉県浦安市にありますよね。

ところで私たちの墨田区は、かつて「本所区」と「向島区」に分かれていて、両区が合併して今の名前になったのは1947年のこと。その由来は、区のホームページで解説されています。〜「昔から広く人々に親しまれてきた隅田川堤の通称“墨堤”の呼び名の「墨」からと、“隅田川”の名の「田」からの2字を選んで名付けられたものです」。

隅田川のほとりの地なのに、区の名前は墨田区。そんな疑問もわきますが、区のホームページの解説はこう続きます。〜「なお、区名を決めた当時、「隅田」を推す意見がもっとも多かったのですが、当時「隅」という字が当用漢字になかったために使うことができず、さらに、隅田川が法律で正式な名称とされていなかったため、「隅田区」の誕生に至りませんでした」。

この連載【第16回】でも触れましたが、荒川放水路が「荒川」となったのは1965年。それまでは今の隅田川が法律上ずっと「荒川」だったので、「隅田区」にはできなかった事情もあるようですね。

[参考資料]
墨田区ホームページ内「よくある質問」〜「No.1460:「墨田区」の名称の由来を知りたい。」
https://www.city.sumida.lg.jp/faq/kuseijoho/gyousei_zenpan/1460.html

江東区内なのに「墨田」が名前に付く学校?

今日のさんぽ は、墨田区の最南端・菊川3丁目エリアのさらにちょっと南の江東区内からスタートします。

東京都立墨田工科高校

▲「東京都立墨田工科高校」は創立以来120年を超える、大変歴史ある学校です。「墨田工業高校」の名で長年親しまれてきましたが、2023年4月から今の校名に変更されています。

大村智博士

▲2015年にノーベル賞(生理学・医学賞)を受賞した大村智博士は、若き日に同校の教師をつとめていました。交差点角の歩道には、立派な記念碑が建てられています。

同校は「東京府職工学校」として1900年に設立。当初の校舎は、旧・本所区本所林町(現・菊川1丁目)にあり、1927年に今の場所に移転しています。校名に「墨田」が初めて登場した(東京都立墨田工業学校)のは1943年。戦時下で新たに東京都が発足したのがきっかけです。

「墨田」は、墨田区誕生のはるか前から親しまれたフレーズのようです

もともと、今の墨田区内からスタートした学校だから。「墨田」が校名に付いている理由は、そう理解できそうにも思えますが、1943年当時に墨田区はまだ発足していません。ちょっと不思議ですね。

『東京都立墨田工業高等学校 創立百年小史』によると、3つの校名案の中から「検討した結果、墨田は昔から東京の代名詞のように用いられているし、なかなか優雅でいいということで、墨田工業に決定したのだという」ことでした。

永井荷風さんも随筆『向嶋』(1927年。後年の随筆『向島』とは別の作品です)の中で、「隅田川を書するに江戸の文人は多く墨水または墨江の文字を用いている。その拠るところは『伊勢物語』に墨多あるいは墨田の文字を用いているにあるという」と述べています。先ほどの「墨田区」命名の由来よりもはるか前から、「墨田」という名への思い入れが地元中心にあったのですね。

「映画館」内でひと休み

折角〝すみだの最南端〟辺りに来たので、ひと休みしていきましょう。墨田工科高校から北に歩くと間もなく「Stranger(ストレンジャー)」がありました。

Stranger Cafe

▲もともとは、地元で長年営業したパチンコ店舗。その跡を改装して2022年9月に誕生した映画のミニシアター(49席)です。その中に「Stranger Cafe(ストレンジャー カフェ)」を併設。(映画を観ないで)喫茶のみの利用も可能となっています。

Stranger Cafe

▲外観も内部もシンプルでいて、とてもおしゃれ。中に入ると、映画の受付コーナーは喫茶店カウンターを兼ねています。関連オリジナルグッズのショップコーナーの奥に、飲食スペースが設けられています。

自家製スパイシーレモネード

▲「自家製スパイシーレモネード」(600円)をオーダー。オリジナルグラスで提供されます。甘さと酸味、そしてミントやほかの香りなど。とても複雑で重厚な味わいでした。

ミニシアターは渋谷とか新宿にありますが、23区の東側エリアは空白地帯。そこに新風を吹き込むべく、映画を「観る」ことに加えて、「知る」「繋がる」「論じる」「語り合う」5つの体験をしよう。こんな、映画鑑賞体験をアップデートする発信拠点を目指しています。次は、レアな作品たちの上映予定を事前に調べて、映画鑑賞も楽しみたいと思いました。

駅や町名地とかなり離れている。でも名前は「両国」?

次に向かうのも、ある学校です。大横川沿いを北に進みながら首都高・小松川線の高架をくぐると、「大横川親水公園」が広がっています。

東京スカイツリー

▲大横川親水公園の北の終点は、東京スカイツリーのすぐ近くになります。この公園の南端のほうからも冬の青空のもと、くっきりとした姿が眺められました。

京葉道路(国道14号線)から東側に少し進むと、目的地の学校一帯がありました。

東京都立両国高校・附属中学校

▲「東京都立両国高校・附属中学校」。正門は、京葉道路から少し南側に入ったところにあります。

明治期以降、旧・東京府立の第一中学校(現・日比谷高校)以下〝ナンバースクール〟が開設されました。両国高校はその「第三」で、1901年設立(現地には1902年)の伝統ある進学校です。2006年に附属中学校を併設。2022年には高校からの入学受け入れを停止し、今は中学校からの完全型中高一貫校となっています。

同校の正門付近からも、東京スカイツリー

▲同校の正門付近からも、東京スカイツリーの姿をはっきりと見られます。(この写真は、学校敷地外から撮影しています)

同校の最寄りは「錦糸町駅」。駅から同校通用門(京葉道路側)まで徒歩約5分の近さです。あれっ?「両国駅」や町名地「両国」からはずいぶん遠いのでは! これまた〝名は体をあらわすとは限らない〟ケースかも。

同校ホームページには、「両国高校の校名も隅田川に関係が深く、武蔵国と下総国の境をなす隅田川に架けられた「両国橋」がその名前の由来とされています」と説明されていました。
[参考資料]
東京都立両国高等学校・附属中学校ホームページ内「校長あいさつ」
https://www.metro.ed.jp/ryogoku-h/our_school/message.html

「下総国」は今では千葉県内のイメージですが、かつては隅田川の西側が武蔵国、東側が下総国でした。隅田川は、「国境(くにざかい)」でもあったのですね。同校が開設された当時と現在の様子を、両国橋との間の地図で確認してみましょう。

地図

▲左側の地図は、同校の前身が開設されて間もない頃のもの。現・総武線は隅田川の手前までで、鉄道2駅の名前も今とは違います。そして、「両国橋」から右側(東側)に一直線に伸びる道の突き当りに「(第三)中学校」があることが分かります。

その後、現・京葉道路や(かつてあった)路面電車が同校敷地の北側に整備されました。後年(1950年)校名を改称するとき、一直線の彼方に存在感が大きく意識される「両国橋」を新校名に取り入れた。それは、きっと自然な心情や流れだったのだろうと推測されますね。

静かな一角には、あのヒーローたちゆかりのスポットが

同校一帯を離れ、京葉道路から緑4丁目の交差点を南側に曲がると、静かな通りが。そこには、こうしたスポットが続いていました。

五柱稲荷神社

▲「五柱稲荷神社」。本殿の左側(写真の中央)には、「勝海舟揺籃之地」の木標が見えます。幕末から明治期に活躍した勝海舟。この連載【第12回】でもご案内しましたが、父の実家(現「両国公園」)で幼少期を過ごした海舟は、その後8歳からこの地で約15年暮らしました。

長谷川平蔵の旧邸

▲同じ通り沿いの少し南側には、「長谷川平蔵の旧邸」の解説板が。小説やドラマ・映画の『鬼平犯科帳』シリーズで有名な人物は、創作の中のキャラクターだと誤解されがちですが、実在の人物です。

さんぽの仕上げは、スタート地点に戻って・・・

すみだにゆかりのある歴史上の人物の足跡に触れながら、スタート地点の「菊川駅」周辺に戻ってきました。訪れたのは「タコ鉄」。店名の通りタコ焼きが中心メニューですが、ちょっとおしゃれなお店です。

タコ鉄

▲新大橋通りに面しています。シンプルですっきりした外観ですが、袖看板や入口マット、そして屋根から下がる照明やネット状のオブジェなど。さりげないおしゃれ感が伝わってきますね。

今日は早めに帰宅したいので、〝昼飲み〟に近い時間帯での晩酌となります。

タコ鉄

▲店内も、シンプルですっきりしています。カウンターに7席。その向かいがキッチン。カウンター奥(写真を撮影している位置辺り)にテーブル5席の、小ぢんまりとした店内。写真右側ほかの壁面には、大友昇平のボールペン画など新鋭アーティストの作品がディスプレイされています。

ギネス

▲まずは、「ギネス(瓶)」(770円)で喉をうるおします。「ハッピーアワー」(14:00〜18:00)のタイミングであればラッキー! アルコール全品500円、ソフトドリンク全品200円とおトクになります。

ポテトサラダ(ベーコン)

▲つまみに、「ポテトサラダ(ベーコン)」(600円)をオーダー。刻んだベーコンを想像していたら、大きいのがたくさんでサラダの表面が見えません。嬉しいサプライズ(笑)でした。

グラスワイン白

▲「グラスワイン白」(500円)を追加。

だし

▲シメは、メインのタコ焼メニューの中から「だし」(720円)をチョイス。関西の「明石焼き」風にだし汁にひたして、おいしくいただきました。ほかに、「そのまんま」「ソース」「しょうゆ」「ポン酢」がラインアップされていて、テイクアウトにも力を入れているようです。

先ほど訪れたミニシアター内のカフェともども、シンプルでおしゃれな雰囲気を味わうことができて、大満足でした。

花風

今日のさんぽ を振り返って

今日は、〝名は体をあらわすとは限らない〟ようにも思える学校2ヶ所を中心に巡りました。ちなみに区内では、「墨田幼稚園」、「墨田中学校」、「墨田川高校」がそれぞれ離れて位置しています。また、「墨田」という町名は北端のほう、荒川と墨堤通りに挟まれたエリアに広がり、墨田4丁目には「隅田小学校」があります。

しかし、「墨田」(そして「両国」も)は、歴史をさかのぼると現在のイメージ以上に、実は大きな広がりや地元での愛着があるのだ。そんなことを実感できたように思えます。では、皆さんまたお会いしましょうね・・・。

【お店情報】
※営業時間・定休日は変更となる場合あり。来店前に電話確認してください。
Stranger Cafe(ストレンジャー カフェ)
東京都墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル
TEL:080-5295-0597
営業時間:9:00〜22:00(L.O)日曜営業
定休日:不定休

タコ鉄
東京都墨田区菊川3-8-5 M`s BLDG 1F
TEL:050-5872-1503
営業時間:14:00〜21:30(L.O)日曜営業
定休日:不定休

【参考】
東京都立墨田工科高校
東京都江東区森下5-1-7

東京都立両国高校・附属中学校
東京都墨田区江東橋1-7-14

五柱稲荷神社
東京都墨田区緑4-11-6

長谷川平蔵の旧邸(解説板)
東京都墨田区緑4-12-7