【第17回】江戸時代から続いている。さあ「隅田川七福神めぐり」に出かけましょう!

新年 明けましておめでとうございます。今年・2024年は、うるう年(2月が29日まである)。パリ五輪も開催されます。そんな1年のさんぽの手始めに「隅田川七福神めぐり」。行ったことあるよ。そんな方々も多いかもしれませんね。

「七福神めぐり」とは?

七福神とは、福をもたらす七体の神仏聖人のこと。それぞれを祀る社寺を巡って参拝し、開運を祈るのが「七福神めぐり」です。正月・松の内(元旦から7日)に巡拝したり、御朱印や御分体を集めたり、御分体はさらに宝船に乗せて祀ったり。そんなこだわりもあったりして、全国あちこちに見られる風習です。

七福神のメンバーとそれぞれのご利益(りやく)の例を、可愛らしいイラストとともにご紹介しておきます。

七福神
七福神

▲上段の左から「大黒(国)神」、「布袋尊」、「恵比寿神」。下段の左から「寿老人(神)」、「弁財天」、「毘沙門天」、「福禄寿尊」です。

[イラスト出典]
「ナイスなイラスト」〜「七福神全員のイラスト」
https://niceillust.com

「隅田川七福神めぐり」に出発

「隅田川七福神めぐり」に出かけるとき、アクセスマップがあると便利です。「隅田川七福会」のホームページに掲載(下記(1))され、また区内の観光スポット等で印刷物でも配布されています。

アクセスマップ
アクセスマップ裏面

▲マップの表面(上)と裏面(下)。墨田区の登録無形民俗文化財で、江戸時代の文化年間(1804年〜1818年)に始まったようです。隅田川の下流側「三囲神社」から上流側「多聞寺」の間の6社寺を巡ることになります。(三囲神社には、2神が祀られています)

「昔は、海から宝舟が上るということで、川下の三囲神社から川上へとさかのぼってお参りする方が多かったようですが、現在では、交通の便から多聞寺からスタートする方も多くなっています」。
〜隅田川七福会のホームページ・下記(2)では、このように解説されています。

今日は、多聞寺からスタートしましょう。行程は約4㎞。回るスポットが多いので、各所ではポイントを絞ってご案内をいたします!

[出典・参考資料]
(1)「隅田川七福会」ホームページ〜「巡拝コース・交通機関」
 https://www.sumidagawashichifukujin.com/blank-2
(2)「隅田川七福会」ホームページ〜「参拝Q&A」〜「三囲神社と多聞寺のどちらからスタートしたら良いのでしょう?」
 https://www.sumidagawashichifukujin.com/blank-13

まずは「多聞寺」と「白鬚神社」へ

まずは「多聞寺」から。この連載【第11回】でも訪れていまして、「すみだで1番」がダブル。墨田区で一番北側にあるお寺で、山門は墨田区で一番古い建造物でしたね。

多聞寺

▲本尊の毘沙門天像は、弘法大師の作といわれています。武門の神でもあり、戦国武将・上杉謙信は旗印を「毘」の文字にしていました。

墨堤通りを南西に進むと、次のスポット「白鬚神社」に到着しました。こちらも【第15回】で立ち寄ったばかりです。951年創設で、墨田区内では牛島神社と並ぶ屈指の歴史を持つところでした。
こちらの白「鬚」神社とは別に、墨田区内に2社ある白「髭」神社も【第16回】で巡りましたね。

白鬚神社

▲祭祀されている猿田彦命(さるたひこのみこと)は、古代神話の天孫降臨の際に道案内をした神です。そこから、お客を案内してくれて千客万来・商売繁盛を願う信仰につながりました。

隅田川七福神では寿老神のスポットとなっていますが、「寿老人」はもともと中国の道教の神。猿田彦命とは違うような・・・。そのワケは、この後でご説明します。

「百花園」でひと休み

白鬚神社からちょっと歩くと「向島百花園」に到着します。こちらは社寺ではありませんが、実は隅田川七福神(めぐり)の発祥の地です。

向島百花園

▲入ってすぐの庭門の傍らには、福禄寿尊の碑が建てられています。

四季折々の草花が楽しめる風流なスポットとして有名ですね。今は都立施設となっていますが、もともとは、骨董商で財をなした文化人・佐原鞠塢(さはら きくう)が1804年に開設した庭園です。

骨董商時代から多くの文化人(文人墨客)となじみのあった鞠塢。もともと梅の木をたくさん植えていて、交流のあった大名家の次男で画家の酒井抱一(さかい ほういつ)の言葉「梅は百花に魁(さきが)けて咲く」から「百花園」と名付け、その後いろいろな樹木や草花を増やしたようです。

百花園には、文化人仲間達がサロンのように集いましたが、鞠塢が愛蔵していた陶製の福禄寿尊像に着目。ほかの七福神も周辺の社寺に祀られていることから、隅田川七福神めぐりが始まったようです。「寿老人」だけ社寺が思いつかず、容姿風体が似ている猿田彦命(白鬚神社の祭神)を最後に当てはめたので、こちらでは「寿老神」。そんなエピソードが先ほどのアクセスマップなどにも紹介されています。

東京スカイツリー

▲園内の樹木越しに東京スカイツリーが見えます。(暖冬化のせいか)季節感がややズレてしまいそうですが、なかなかの紅葉でした(撮影時期12月上旬)。

ここで、ひと休みしましょう。園内の売店「茶亭さはら」にお邪魔しました。

茶亭さはら

▲シンプルな建物です。店名の通り、佐原鞠塢の子孫の方(八代目)が営んでいるそうです。

緑茶セット

▲緑茶セット(落雁付き、400円)。「百花園」と刻まれた落雁は何と、八代目が手作りしているのだそうです。

墨堤添いの2スポットへ

次に向かったのは「長命寺」です。

長命寺

▲徳川三代将軍家光が鷹狩りに来た際、急な腹痛に見舞われます。寺の井戸水で薬を服用したところ、たちどころに回復。井戸に「長命水」の名を与えたことから、寺名も改称されたようです。

「長命寺桜もち」のほうについつい目がいってしまいがち(笑)ですが、「長命」の由来を再認識しました。水辺の神である弁財天(七福神の紅一点)がいらっしゃることにも合点がいきますね。境内の一角には、成島柳北の功績と半身像を刻んだ石碑があります。

成島柳北

▲旧幕府の重臣だった柳北。明治維新後は新政府に仕えることなく、民権派のジャーナリストや実業家として活躍しました。この碑は柳北が没した翌年・1885年に建てられていますが、いつしか鼻の先の部分が欠けています。

永井荷風さんは、柳北を敬愛。随筆風の作品『隠居のこごと』の中で「成島柳北の紀行随筆の類は余が青年の頃より今に至るも読んで猶飽かざるものなり」と絶賛。少し先ではこの石碑について、「十年前に余の見たりし時既に其鼻のかけてありし程なれば今はいかゞなりしや」と言及しています。

荷風さんが見たのは1913年頃。110年もの時を経て、鼻の欠け具合を同じ目線で見ているのだと思うと、感慨もひとしおでした。

長命寺に隣接するのが弘福寺。黄檗宗の寺院で、なかなか凝った外観です。

弘福寺

▲抜粋して拡大したところだけではなく、本堂や山門で瓦屋根の先端部が全部こうなっています。かなり見事です!

こちらの七福神は布袋尊で、七福神の中で唯一実在した中国唐時代の禅僧です。山門を入って右側には小さな祠があり「咳の爺婆尊」の石像が祀られています。

せき止飴

▲寺務受付では、咳の爺婆尊にちなんだ「せき止飴」(300円)をわけてくれます。

ゴールは三囲神社

少し歩くと、いよいよゴールの三囲(みめぐり)神社に到着しました。三井家が江戸時代に日本橋に進出して「越後屋」(現・三越日本橋本店)を開業して以来の守護神といわれています。日本橋から見て鬼門(東北)の方角を守り、また「囲」の字が「井」をかこっていて三囲が三井を守っている。そんなことにちなんでいるようです。

三囲(みめぐり)神社

▲大国神と恵比寿神は、境内の本殿に向かって左側の社に。もともと、越後屋に祀られていたと伝えられています。

三柱鳥居

▲境内の奥には、三柱鳥居が。珍しい形状(全方位から拝める)で、三井邸にあったもののようです。

ライオン像 狐像

▲境内の動物像たち。左側のライオン像は、三越池袋店(2009年閉店)の店頭にあったものを移設。右端の狐像は1800年代初頭に奉納されたもの。狐像は目が吊り上がって怖い表情のものが多いですが、こちらは近くで見ると優しそうな目でとても温和なお顔。「三囲のコンコンさん」として親しまれています。

さんぽの仕上げは、洋食店で

今日は、たくさん歩いてお腹もペコペコです。向かったのは、三囲神社から少し歩き「桜橋通り」を越えた辺り。住宅街の一角にポツンとあったのは「洋食 あきら」でした。

洋食 あきら

▲地味めながら歴史を感じさせる外観。前の通り沿いに、ほかの飲食店は見当たらない。そんな静かな立地です。

洋食 あきら

▲店内も落ち着いた雰囲気で、テーブル席とカウンター席には、ゆったりした椅子が置かれています。夕刻からの居酒屋的な利用にも対応できる。そんなメニューやお酒も揃えられています。

たくさん歩いたので、喉もカラカラ! まずは瓶ビール(650円)を。そして、おつまみ的な品をオーダーしました。

ちくわのポテトはさみ揚げとホタテのポンズ風味

▲ちくわのポテトはさみ揚げ(左側、300円)とホタテのポンズ風味(右側、450円)。定番のメニュー表とは別の「酒の友」メニュー掲示板にあった品でした。

ねぎオムレツ

▲こちらも「酒の友」メニューのねぎオムレツ(450円)。プレーンなオムレツよりもねぎの風味と塩味が効いていて、ビールが進みます!

グラスワイン・赤

▲次のお酒は、グラスワイン・赤(450円)にしました。

ハンバーグステーキ

▲シメの食事は、ハンバーグステーキ(玉子付き、850円)に。付け合わせの野菜3種(写真上部)のうち、左端はダイコンの煮物です。レストランではなく、あくまでも〝洋食屋さん〟なのね。そんな嬉しい気持ちにしてくれます。ハンバーグも、ほどよい大きさ。全部おいしくいただきました。

ご店主の野口さんは、帝国ホテル出身シェフのもと信濃町で修行。この店を開くとき店名をどうするか迷いましたが、ストレートにご自分の名をつけたそうです。創業は1978年。45年以上も地元で親しまれてきました。

花風

今日のさんぽ を振り返って

今日は、たくさんのスポットをかなり駆け足で巡りました。隅田川七福神のご開帳、御朱印や御分体集めは、1月の1日から7日の期間限定となっています。でも、この時期に必ずしもこだわらない訪れ方もあるでしょう。また、全部一気に巡るのではなく、季節の変化を感じながら折々に訪れるのもありでしょうね。

いずれにしても、こうした〝お決まり〟の巡り先があると、すみだの歴史やそれぞれの社寺のことを改めて深く理解できる。そんなよい機会になるかもしれません。では、皆さんまたお会いしましょうね・・・。

【お店情報】
※営業時間・定休日は変更となる場合あり。来店前に電話確認してください。
茶亭さはら
東京都墨田区東向島3-18-3 向島百花園内
TEL:03-3619-4997
営業時間:10:00〜16:30(向島百花園の最終入園時間16:30、閉園時間17:00)
定休日:12月29日〜12月31日(向島百花園休園日)

洋食 あきら
東京都墨田区向島4-5-7金子ビル1F
TEL:03-3625-9481
営業時間:11:30〜14:00(LO)
     17:00〜21:00(LO)
定休日:火曜(祝日の場合は翌日)

【参考】(   )内は、祀られている七福神
多聞寺(毘沙門天)
東京都墨田区墨田5-31-13

白鬚神社(寿老神)
東京都墨田区東向島3-5-2

向島百花園(福禄寿尊)
東京都墨田区東向島3-18-3

長命寺(弁財天)
東京都墨田区向島5-4-4

弘福寺(布袋尊)
東京都墨田区向島5-3-2

三囲神社(大国神・恵比寿神)
東京都墨田区向島2-5-17