【第15回】「白ひげ神社」は、墨田区内ではここだけ?

隅田川にはたくさんの橋があり、墨田区に架かっているものだけでも13本(専用的な橋4本を含む)あります。今日は、その中でも有名な橋からさんぽをスタートしましょう。

まずは、「白鬚橋」へ

隅田川に架かる橋をビジュアルに教えてくれるサイトがあり、そこに掲示されている図表がこちらです。
 [参考資料](以下の図表の出典)
  東京の橋クラブ「東京の橋ナビゲーション」〜「隅田川」

  https://www.djq.jp/river_liblary/tokyo_river_sumida.html

隅田川に架かる橋

▲左側半分が上流側、続いて右側半分が下流側になります。墨田区内に架かるものは、左側の下から4本までと右側の上から9本までの合計13本(鉄道や高速道路ほか専用的な橋を含む)です。

さて、このうち墨田区内では北から2番に位置する「白鬚橋」にやってきました。

白鬚橋

▲橋よりも下流の墨田区側から見た姿。今の橋は、1931年竣工の大ベテラン。もう90年以上も、大動脈の明治通りを墨田区と台東区につなぐ役目を果たしているのですね。

徳川家康が国替えされて以来、江戸の町は大きく発展して人の往来や流入も増加。江戸の北や東の方向に横たわる隅田川は、当時やそれ以前に橋があまりなかったため、渡る手段は渡し船が主体でした。白鬚橋の辺りは交通の要衝で、「橋場(白鬚)の渡し」が古くからありました。

東京スカイツリー

▲橋の欄干が、東京スカイツリーを1枚の絵に切り取っている額縁のように見えるかも。

「名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」。在原業平(825〜880)の和歌(『伊勢物語』、『古今和歌集』)ですが、この「言問はむ」が「言問橋」や「言問団子」のもとになっています。業平が隅田川を渡ったといわれるのは、実は橋場(白鬚)の渡しだったようで、言問の橋や団子よりも少し上流の場所になります。

まずは、おやつをゲット

白鬚橋から離れて墨堤通りをしばらく南下。到着したのは「向島 志”満ん(じまん)草餅」。創業以来110余年の老舗です。

向島 志”満ん(じまん)草餅

▲以前にこの連載でも訪れた「長命寺桜もち」(山本や)や「言問団子」。そしてこちらの草餅を加えた3つが、墨堤の3大〝和スイーツ〟といわれることがあるようです。

下の列が「あんいり」、上の列が「あんなし」

▲店内のショーウィンドウの一角。下の列が「あんいり」、上の列が「あんなし」。ともに1個175円です。

あんなしは表面がくぼんでいます。これは、きな粉と白みつを後から入れるためのスペースです(きな粉と白みつは、2個以上買うと添えてくれます)。テイクアウトして、後でおやつにいただくことにします。

墨田区内屈指の古さの「白鬚神社」へ

墨堤通りをまた北に少し戻った東側に、緑のエリアが見えてきました。到着したのは、「白鬚神社」です。

白鬚神社

▲神社のホームページによれば、創設されたのは今から1070年余も昔の951年。琵琶湖西岸(滋賀県高島市)にある本社から分祀されたようです。墨田区内では、牛島神社と並ぶ屈指の歴史を有しています。

境内の一角には、鷲津毅堂(わしづ きどう、1825〜1882)の功績を記した碑と解説板がありました。幕末から明治初期に活躍した漢学者・官僚。解説板でも説明されていますが、実は永井荷風さんの外祖父(母方のおじいさん)です。

鷲津毅堂

▲碑(中央)と解説板(右)。荷風さんの母・恒(つね)は、鷲津毅堂の娘。荷風さんの父・久一郎は内務省や文部省の官僚を務めましたが、「禾原(かげん)」という号を持つ漢詩人でもありました。若いときに出身地で尾張藩の藩学者・鷲津毅堂に師事した久一郎は、恩師の娘と結婚したわけです。

荷風さんは幼少期、次弟が生まれた際にしばらくの間、上野の下谷にあった母親の実家・鷲津家(当時、毅堂は既に死去)に預けられました。後年の随筆作品では、その当時を回想しています。

毅堂が尾張藩お抱えの儒学者であり、明治初期に官僚として活躍したこと。そして幼き日に家族と墨堤に花見に出かけた際、白鬚神社境内の石碑が毅堂の事蹟を顕彰するものだと教えられたこと。そんなエピソードにも言及し、祖父を誇りに思い慕っていた様子が偲ばれます。

「(雷門から)歩みて言問橋をわたり白髯に至る。白髯神社蓮華寺共に焼けず、外祖父毅堂先生の碑無事に立てるを見る」(「髯」の字は原文のまま)。

荷風さんの代表作日記文学『断腸亭日乗』の1948年1月10日の記述です。太平洋戦争終戦後、少し落ち着いたときに再訪して碑の無事を安堵。荷風さんも老齢になっていましたが、祖父への変わらぬ敬愛が感じられます。

「白鬚公園」で、おやつ

先ほどゲットした草餅で、おやつにしましょう。近くの「白鬚公園」に移動します。

白鬚公園

▲白鬚公園は、大きなマンション群に隣接しています。

解説板

▲公園の一角にあった解説板。白鬚公園周辺は、幕末に列強諸国との外交交渉に尽力した幕臣・岩瀬忠震(いわせ ただなり)の邸宅「岐雲園」の跡地です。明治になってから幸田家の所有となり、露伴がすみだに初めて住んだのも当地でした。

近くのコンビニで買ったドリンクと一緒に、草餅をいただきました。よもぎの香りとほどよい甘さは、さんぽの中休みにぴったりでした。

カフェラテと志”満ん草餅

▲カフェラテと志”満ん草餅。「あんなし」の草餅のくぼみが、きな粉や白みつをうまく受け止めてくれています。

「白ひげ」は、実はいろいろある

今日これまで巡った「白鬚」の名のつくスポット、みんな「白鬚神社」にちなんでいることは明白です。ところが、実は墨田区内には「白髭神社」も2社(東墨田3丁目、立花6丁目)あります。こちらでは、「ひげ」の漢字が「鬚」ではなく「髭」。この微妙な違いは何でしょうか?

まず「ひげ」の漢字ですが、次の3つが使い分けされています。
 「髭」⇒ 口ひげ(口の上の部分)
 「鬚」⇒ 顎ひげ(あごの部分)
 「髯」⇒ 頬ひげ(ほおの部分)

そして「鬚」は、顎ひげの垂れた老人をあらわす象形文字がルーツだったようです。ここで本社・滋賀県「白鬚神社」のホームページの掲載内容を引用します。

「御祭神の猿田彦命(さるたひこのみこと)は、天孫(てんそん) 瓊瓊杵尊(ににぎのみこと) 降臨(こうりん)の際に先頭に立って道案内をされた神で、導き・道開きの神として知られている。当社にお祀りされている猿田彦命は白髪で白い鬚を蓄えた老人のお姿で、御社名の由来にもなっている長寿神である」。
 [参考資料]
(1)「近江最古の大社 白鬚神社」〜「由緒略記」
 http://shirahigejinja.com/goyuisyo/
(2)「近江最古の大社 白鬚神社」〜「御分霊社の分布」
 http://shirahigejinja.com/goyuisyo/御分霊社/

(1)によって、白「鬚」であることがよく理解できます。古代神話まで遡る壮大な由緒なのですね。また(2)によると、全国の白鬚(髭・髯)神社の数は300社近くにものぼります。東京都内では、10社のうち3社が墨田区に集まっているようです。

さんぽのシメは「肉食系」で

おやつが和スイーツだったので、晩酌兼夕食は〝肉食系〟にしましょう。そう思って、しばらく時間つぶしをしてから向かったのは、曳舟駅にほど近い「burger house UZU」。この連載【第9回】で訪れた「うず食堂」と同じく、すみだに展開する「UZUグループ」のこだわりハンバーガー店です。

burger house UZU

▲場所は、イトーヨーカドー曳舟店の立体駐車場入口の隣になります。2014年7月にオープンしました。

burger house UZU

▲店内は三角形のスペース。入口を入ってすぐのところに各種ハンバーガーの大きな写真メニューが掲げられていて、食欲を誘います。

生ビール

▲まずは、生ビール(550円)で喉をうるおしましょう。

こちらでは仕入れた肉をお店でミンチにするので、鮮度や旨味が保たれます。また、オーダーが入るたびに肉を焼き始めるやり方。値段は少し高めで提供までの時間も少々かかりますが、各種の本格的なハンバーガーを楽しむことができます。

オニオンリング

▲ハンバーガーが出来上がるまで「オニオンリング」(490円)をつまみに。1つひとつが大ぶりで、量もたっぷり!

アップルウッドスモークベーコンチーズバーガー

▲お店おススメの1つ「アップルウッドスモークベーコンチーズバーガー」(1,630円)は、10分ほど待つと出来上がり。このお店のハンバーガーは、すべてフライドポテト付きになっています。

チェーンのお店などで見かけるハンバーガーとは、見た目もボリュームも全然違います。肉汁たっぷりのハンバーグもさることながら、バンズから大きくはみ出たスモークベーコンも香ばしくて、存在感マックスでした!

本格的なハンバーガーで〝肉食系〟食欲も満たされ、幸せな気分でお店をあとにしました。

花風

今日のさんぽ を振り返って

今日はまず、隅田川にたくさんの橋が架かっていることをおさらい。すみだの地が隅田川とともにあることを再認識しました。そして、そのうち代表的な1つの橋の周辺でいろいろな発見がありました。女性はともかく男性だって、「ひげ」の漢字が3つもあることやそれぞれの違いはあまり意識していないかもしれませんね。

そして、すみだの白鬚神社の千年を超える長い歴史。それだけでもすごいですが、古代神話にまでつながる由緒や祭神(猿田彦命)の顎ひげ姿とも結びつくなんて・・・。次は、墨田区内のほかの「白髭神社」2社も訪れてみようと思います。では、皆さんまたお会いしましょうね・・・。

【お店情報】
※営業時間・定休日は変更となる場合あり。来店前に電話確認してください。
向島 志”満ん草餅
東京都墨田区堤通1-5-9
TEL:03-3611-6831
営業時間:9:00〜16:00
※販売する商品がなくなった場合、早く閉店する場合あり
定休日:水曜

burger house UZU
東京都墨田区京島1-2-2-113
TEL:03-6657-1454
営業時間
(月曜)11:00〜14:30(L.O)、17:30〜21:00(L.O)
(火曜〜金曜)11:00〜14:30(L.O)、17:30〜21:30(L.O)
(土曜・日曜・祝日)11:00〜21:30(L.O)
定休日:不定休(年末年始は休み)

【参考】
白鬚神社
東京都墨田区東向島3-5-2

白鬚公園
東京都墨田区墨田1-4-42