【第6回】寒い季節。ほっこりするなら、やっぱりここ?

寒い日が続きます。身も心もほっこりしたくなるので、今日はあの施設を訪ねようと思います。暖かい体験をする前に、(体温が下がるかもしれない)あるスポットにちょっと寄り道してみましょう。

すみだの「置いてけ堀」とは

「七不思議」って、聞いたことありますか? こうした話は全国あちこちにあるようです。怪談、超常現象、あるいは〝都市伝説〟といったものでしょうか。怖くて不気味な話が中心ですから、7つも聞くと心寒くなるかもしれませんね。
すみだの地にも七不思議があります。墨田区のサイトで「本所の七不思議」として紹介されていて、そのトップバッターは「置いてけ堀」です。

[参考資料]
墨田区ホームページ内「よくある質問」〜「№1148:本所七不思議について知りたい。」

今の姿からは想像できませんが、錦糸町あたりだって江戸時代はひと気が少なくてうす暗い掘割があちこちにあった。だから、こんな話が生まれたのでしょう。そんなわけでまず、大横川親水公園に出掛けてみます。細長く広大なエリアの一角には、こんなレリーフがありました。

「すみだ むかしばなし」の壁面レリーフ

「すみだ むかしばなし」の壁面レリーフ。いろいろな話が、北側に向かって順番に掲示されています。

置いてけ堀

レリーフでも、最初は「置いてけ堀」。釣り人2人がお化けのようなものに驚かされている様子が描かれています。「置いてけ」の声の主は、カッパとかタヌキだといわれているようです。

この堀があった場所は、墨田区内ほかあちこちの説があるようです。いずれも寂しい堀があったような雰囲気は今やなく、現地を見てもピンとこないでしょう。でも、人から人へと何百年も言い伝えられてきたこと自体が、すごいことかもしれませんね。

今日のメインは、「銭湯」です

寒い中をずっと歩いたこともあって、体が冷え冷え。いよいよ、メインのお目当てに向かいます。しばらくして着いたのは、「御谷湯(みこくゆ)」という銭湯(公衆浴場)です。

御谷湯

1947年創業で、2015年5月に今の建物に建て替え。1階がフロントで、エレベーターで上がった4階・5階が浴場です。銭湯と聞いてイメージされる姿とはかなり違って、外観も中も現代的な雰囲気。雨水の循環利用なども先進的で、「進化系」ともいわれる銭湯です。

銭湯といわれても、ピンとこない人も多いかもしれません。今は内風呂(家の中にお風呂がある)が当たり前の時代。銭湯はどんどん減って〝絶滅危惧種〟といわれることすらあります。ちなみに、墨田区内でも1965(昭和40)年に113あったものが、2000(平成12)年60、2013(平成25)年30と激減。今では18店が残っているだけです。

永井荷風さんの中編小説『腕くらべ』(1918年市販)は、全22章のうち第20章は丸々が銭湯でのシーン。登場人物の1人の男性が、湯船でこんな風に語ります。「湯は銭湯に限るね、便利なようだが家の風呂桶じゃ鼻唄も出ねえ」。

100年以上経った今でも「その気持ち、わかる!」と思う人は、きっと多いのでは。高い天井、広々とした湯船、そしていろいろな図柄の大きなペンキ絵やタイル絵だって。内風呂にはない開放感や非日常感は、やっぱり格別です。

では、中に入りましょう。まずは1階の様子です。(4階・5階は週ごとに男湯・女湯が入れ替えです。今日は営業開始前に、各階の写真撮影をさせていただきました)

御谷湯

(左上)入浴料は500円。チケット類は自動販売機で買います。タオルはレンタルもあり、ボディソープやリンスインシャンプーが洗い場に備えられ、手ぶら利用だって可能です。(右上)フロントです。ご店主の片岡さんは、インディーズレーベル所属の音楽バンド「片想い」のボーカルでもあります。(左下)男女別のエレベーターホール。(右下)1階の奥にある福祉型家族風呂。墨田区初の設置で、本人と介助者が貸し切りで天然温泉を楽しめます。

では、5階と4階に行ってみましょう。どちらも、天然温泉(高温・中温・低温)、半露天風呂、打たせ湯、マッサージ系浴槽、不感温温泉(または薬湯)など多彩な構成。「天然温泉」のアピール度が高いですね。こちらのは「黒湯」といわれるもので、古代の海藻・草・木の葉などの成分が溶け込んだ地下水を深いところから汲み上げています。植物由来なので肌に優しいお湯です。

5階は、最上階のメリットを活かした高い天井で、開放感もひとしおです。

御谷湯

(左上)木製の脱衣所ロッカー。漢数字表示や独特な脱衣カゴなど、まさに「和モダン」の世界です。(右上)ペンキ絵は葛飾北斎の描いた富士山をモチーフにした雄大なもの。(左中)天然温泉の浴槽のうち、高温(仕切られた右下)と中温(それ以外)です。(右中)奥にある半露天風呂も天然温泉です。(下)半露天風呂の目隠し格子越しに、東京スカイツリーも眺められます。

4階は、天井が5階よりも低いことを逆手に〝洞窟感覚〟を出したそうです。

御谷湯

(左上)洗い場も5階とは雰囲気が変わります。(右上)4階は尾形光琳風の図柄のタイル絵です。(下)奥まった位置の不感温温泉。洞窟風呂にいるような気分になれます。

営業時間になってから、実際に入浴しました。多彩な浴槽に代わる代わる入っていると、まるでリゾート気分。半露天のスペースにクールダウンできる席もあって、ついつい長湯しちゃいました。

御谷湯

(上)湯上りは、やっぱりコーヒー牛乳! 1階の自動販売機で130円です。(下)フロントで買える大判のオリジナルタオル(1,000円)は、ご店主の知人の絵本作家・加藤休ミのデザイン。富士山と東京スカイツリーを背に気持ちよさそうに湯につかるお相撲さんが、地元らしさ満点です。

御谷湯の燃料は、廃材の木材とかではなくガスを利用。昨今のエネルギー価格高騰は、経営にも大打撃だとのこと。すみだの銭湯は、ほかにも飲食機能の充実、オールナイト営業、宿泊機能などを付加価値にしているところもあります。お客が地元の昔ながらの常連さんだけでは、生き残りが難しい時期になっているようにも思えます。

私も(ささやかな応援の気持ちを込めて)オリジナルタオルを買わせてもらい、御谷湯をあとにしました。

今日の仕上げは、「ワイン」です

長湯したお蔭で、体はポカポカ。今の気分は、ビールよりもワインです。訪れたのは「ワイン処 葡楽(ほらく)」。交差点の角に面して、わかりやすい場所です。

ワイン処 葡楽

木造2階建の大きな建物の一部、1階のコーナー部分にあります。控えめだけどおしゃれな看板やほんのり光る置き灯篭が、隠れ家のような雰囲気を演出しています。

ワイン処 葡楽

(上)入口を入ったところは、2人用のテーブル席が並んでいます。(左下)奥に見えるのは2人用のハイテーブル席。(右下)奥に向かって左側は、カウンター席やキッチンです。

「葡」萄(から造られるワイン)を「楽」しもう。そんな想いが伝わってくる店名ですね。同じ建物内の隣の場所にオープンし、2018年5月から今の場所になったそうです。いろいろな料理も提供されますが、あくまでも主役はワイン。

まずは、本日の白ワインの中からシャルドネ<イタリア>をいただきます。料理は、女性ご店主の前島さんが無国籍の家庭料理と謙遜しますが、どれもおいしそう。本日の前菜(今夜は8種類)は、単品500円が3種盛りだと1,300円。ドリンク1杯+前菜3種のセットにすると1,700円とさらにおトクになる嬉しいサービスです。私は、こんな3種にしました。

ワイン処 葡楽

(左)ポークソーセージ レモン&パセリ。(中)スパニッシュオムレツ。(右)サバとガリのポテトサラダは異色の組み合わせのようですが、意外といけます。

昭和レトロで落ち着いた雰囲気のお店、何と元々は八百屋さん。長く空き家だったスペースが、ワイン処として再生されたのです。

2杯目はスパークリングワイン、3杯目は日本酒をいただきました。ご店主の出身地・青森の地酒が、今夜は2種類用意されていたのです。

ワイン処 葡楽

「豊盃」の生酒・純米しぼりたて(800円)。ワイングラスで飲む日本酒もオツなものです。

最後にパスタ(特製ボロネーズ、900円)をいただきました。湯上りの体もほどよくクールダウンされ、お腹もいっぱい。大満足でお店をあとにしました。

花風

今日のさんぽ を振り返って

銭湯はその数が大きく減ってしまいましたが、新たな姿になったり、付加価値を追加したり。そんな努力で未来への道を切り開こうという動きが感じられます。

そして、昭和の時代に繁盛していた八百屋さんの店が、隠れ家のような飲食店として再生される。しかも、当時の雰囲気や建具の一部を活かしながら・・・。

古いものと新しい流れを対立してとらえるのではなくて、融合させて活かしながら次の代に伝えていく。そんな視点があってもよいことを、今日のさんぽから教えられたような気がしました。では、皆さんまたお会いしましょうね・・・。

【お店情報】
御谷湯(みこくゆ)
東京都墨田区石原3-30-8
TEL:03-3623-1695
営業時間
(平日・土曜・祝日)15:30〜26:00(最終入場25:30)
(日曜)15:00〜24:00(最終入場23:30)
定休日:月曜(ほかに不定休の場合あり)

ワイン処 葡楽(ほらく)
東京都墨田区太平1-31-6-1F
TEL:070-4387-4227
営業時間
(火曜〜金曜)18:00〜24:00(L.O23:00)
(土曜)17:00〜24:00(L.O23:00)
定休日:日曜・月曜

【参考】
大横川親水公園内「すみだ むかしばなし」壁面レリーフ
東京都墨田区本所4-8